監査とは
現在の技能実習制度は2017年11月にスタートしました。それまでの制度下では、実習生のパスポートや在留カードを受入企業が強制的に預かる、失踪した場合の違約金を定めるといった事例が一部で横行するようになっていました。
こういった状況を改善するため、現行制度では実習生の保護が大幅に強化されました。この一環として、監理団体による実習生の受入企業の監査についても、実施方法などが細かく定められています。
監査とは、簡潔に言うと「受入企業が法令違反を行っていないか、当初の計画どおりに実習を行わせているかといったことを監理団体が確認し、その結果を監督官庁である技能実習機構へ報告すること」です。
技能実習制度はひじょうに複雑で、知らず知らずのうちに小さな違反をしてしまっていることもあります。監査があることで、小さな問題が肥大化する前に解決できるというシステムになっています。
監査の時期
監査は3カ月に1回の頻度で行うことになっています。実習生を受入れ始めて最初の監査は実習生の入国日から3カ月以内で、その日から3カ月以内ごとに監査が行われていきます。
この他、受入企業に何らかの違反があったと思われるときも、監理団体は監査を行う必要があります。例えば、実習生から「仕事中に暴力を振るわれた」といった相談があった場合には臨時的な監査の対象です。受入企業は、監理団体による監査を拒否することはできません。
監査の内容
監査で実施すべき内容は制度上決められていますが、実際にどれだけ細かく行うかについては監理団体ごとに異なります。制度で定められているとおりに行うところ、それ以上に丁寧に行うところ、形だけ行うところなど様々です。(「形だけ」というのはもちろん制度違反です)
以下では、制度での規定どおりに監査が行われるものとして、監理団体が確認する内容を具体的に説明していきたいと思います。チェック対象となる項目は、大きく分けて5つあります。
① 実施状況の確認
まずは、実習場所と実習生が従事している作業の確認です。実習生は決められた作業にしか従事することができないため、工場などに立ち入って所定外の作業を行っていないかを確認します。また、決められた実習場所で仕事をしているかということもチェック項目の一つです。
ただし、建設現場や衛生管理が厳しい食品工場などでは、実地での確認が困難な場合があり得ます。そういったときは、何らかの代替手段を講じることも認められています。
実際には、「手間が掛かる」であったり「遠慮してしまう」といったことから、工場などの中まで入っていて監査をする監理団体は多くありませんが。本来は監査のときには実習場所の確認は必須となっています。
② 報告徴収
実習生の受入企業は、「実習責任者」と「実習指導員」を選任する必要があります。実習責任者とは、文字通り実習生の受入れに関する責任者となる人のことです。実習指導員は、実習生に実際に仕事を教える人のことで、5年以上の業務経験がある従業員の中から選任します。
監査のときには、監理団体が実習責任者と実習指導員の双方からヒアリングを行います。ヒアリングの内容は、決められた作業以外のことをさせていないか、安全衛生に配慮して仕事をさせているか、給与の未払い(計算ミスも含む)がないかなどです。
実習生の勤務態度や日常生活に何か問題があれば、このときに合わせて監理団体に伝えて構いません。
③ 実習生との面談
実習責任者や実習指導員へのヒアリングに並んで、監査では実習生からのヒアリングも行われます。仕事するうえで困っていることや不満に思っていることなどがないかを聞き取り、問題が大きくならないよう解決に導きます。
実習生からの不満で多いのは、「給料が安い」、「残業が少ない」というお金に関することや、「○○さんと仕事したくない」などの人間関係に関することが多いですが、いずれにしてもワガママで正当な主張でないものが大半です。良い監理団体であれば、このような実習生の文句は軽くいなして、本当に対処すべき問題が起きてないかを見極めてくれます。
ただ、慣れていない監理団体であれば、実習生の主張をそっくりそのまま受入企業に伝えるメッセンジャーの役割しかしれくれません。この辺りが監理団体ごとに差がつくポイントです。
④ 帳簿書類の確認
実習生を受入れると、様々な書類の作成が必要になります。ほとんどの書類は監理団体が代わりに作成してくれますので、控え貰ってそれを保管しておけば問題ありません。
受入企業での作成が必要な書類の中でもっとも重要なのは「技能実習日誌」という書類です。これは、業務中に実習生へ指導した内容を記録しておくもので、実習生が仕事をした日は欠かさず指導内容を書かなければなりません。
技能実習日誌と合わせて、賃金台帳も重要な書類です。実習生への給与が適切に支払われているか、時間外労働手当などの計算間違いがないか、そして給与控除の金額や項目が知らない間に変わっていないかといったことが主な確認事項です。
仮に計算ミスによる未払い賃金が発生していれば速やかに支払いが必要となりますし、監理団体への報告なく給与控除に関する変更(寮費の引き上げなど)があった場合、最悪のケースでは実習生への返金が必要となることがあります。
⑤ 寮の確認
実習生が生活する寮は、受入企業が準備するのが一般的です。この寮についても制度上様々な基準が設けられており、その基準を満たした状態が続いているかを監理団体は監査のときに確認します。これに加えて、実習生が寮を清潔に使用しているかといったこともチェックします。
制度上の基準で最近厳しくなっているのが、持ち出すことができない金庫を設置しているかということです。実際には実習生も金庫を必要としていませんが、現場を知らない政府の役人がこのようなルールを決めてしまいましたので、従うよりほかありません。
監理団体が監査に来ないときは
ここまで「監理団体が監査でチェックする項目」をご紹介しましたが、監理団体によってはそもそも監査に来ないというところもあります。監査は監理団体にとってもっとも重要な業務であると同時に、もっとも手間の掛かる業務でもあります。
監理団体が監査をしに来ないときは、迷わず技能実習機構に相談しましょう。まずはコールセンター(電話:03-3453-8000)に電話して事情を説明すればOKです。監査を適切に行わないことを理由とした監理団体への許可取消処分も徐々に増えてきています。
また、他の監理団体に直接問い合わせをして、「今の監理団体が仕事をしないので、監理団体を変わってほしい」などと伝えても構いません。
監理団体は日本全国に3,000団体以上あります。近年は監理団体の変更も比較的簡単に行えるようになっており、きちんと対応してくれない監理団体をいつまでも続けている必要はありません。
まとめ
監査の準備はたいへんですが、きちんと監理団体の監査を受けることも実習生の受入れを成功させるために重要です。
今回は監理団体の監査について解説しましたが、監理団体だけでなく技能実習機構も3年に1回の頻度で監査にやってきます。技能実習機構による監査の細かさは、監理団体の比ではありません。
監理団体の監査にきちんと対応していると、技能実習機構による監査への準備も自然とできることになりますので、しっかりと対応しましょう。